伊豆大島社員旅行 三原山 登頂日記

5月に伊豆大島へ社員旅行に出かけた際の、ある『冒険』の記録です。

『三原山 登頂日記』 18.05.13 早朝

 午前2時半、スマホのアラームが鳴った。
アラームを止めて数秒後、ここが自宅ではなく、ホテル和室の布団の上である事に気づいた。
いよいよ夜明け前の三原山をめざす時が来たのか!と、次第に緊張感とともに目が覚めてくる。真っ暗な中、荷物をつかんで部屋の出入り口の方へ向かった。
同室の二人は前日の宴会に十分満足したかのように すやすやと熟睡している。せっかく楽しい夢でもみているだろうから起こしては可愛そうだと思い、光が部屋に入らないよう引き戸を閉めて身支度を始める。トイレを済ませ、LEDライトやカメラバッテリーの点検、防寒に備えてパーカーをザックへ詰め込んだ。

000_三原山_地理院地図_赤線がルート_R

 前日、社員全員で三原山頂上のお鉢巡りを試みたが霧に阻まれ、火口展望台までのコース(地図の青線)に予定変更を余儀なくされた。期待に胸膨らませていた私としては悔やまれて仕方がない。本土からジェットフォイルに乗って伊豆大島に上陸したんだから、なんとしてでも三原山頂上の展望を目にしたいと・・・、断念してから後、宿泊地の大島温泉ホテルに着いてからもずっと、なんとか頂上へ行けないかと考え続け、天候の先行きにも神経をとがらせていた。
 夕方の時点では次の日の朝から雨の予報だったが、夜遅くなるにつれて予報は、降りだしの時間が少し遅くなるような傾向に変わって来た。
その頃まだ誰にも打ち明けてはいなかったが、心の内では既に決心が固まっていた!絶対に決行するのだ!と。
同僚のK氏とは、この旅行が伊豆大島に決まった時から、三原山の頂上での絶景の話題で盛り上がり、期待が膨らんでいた。

 深夜午前3時半、K氏との約束の時間、ホテルのひと気のないロビーのソファーに座って待っていると、K氏が戻って来た。
彼は今回の社員旅行に合わせて、イングレスの重要ポータルである岡田港の灯台を上陸時に攻略し、深夜には島のあちこちのポータルを攻めて戻って来たところ。まさか私がソファーでちょこんと座って、本当に待っているとは予想していなかったと彼が驚きの表情で語っていたのを今も思い出す。約束は何があっても 守らなければなりませんから!

 大島温泉ホテルは三原山の山腹約500mの高所にあり、外輪山の縁にある御神火茶屋までは、ほど近い。750mの山頂をめざすには健脚者でなくとも容易にアプローチできる格好の位置にある。

 ホテルから外に出ると木々がざわめき、不安が募ってきた。しかし、空を見上げると流れる雲の合間に星がいくつか確認できた。これだったらいけるぞ!と胸が高鳴る。
 K氏が運転する車に乗り込み、街灯のない道路を進んで行くと、道路両脇の反射板がまぶしいくらいに光を返してくる。車は御神火茶屋の駐車場まで 風に揺れる木々の間を一気にのぼっていった。

 車を駐車場に停め、御神火茶屋のゲートへ向かうとすぐ横に交番があり、蛍光灯の冷たい光が辺りを照らしている。おそらく常駐なんだろう。
ここを通る際、駐在員に見つかってしまい、この計画が水の泡となってしまうのだけは避けなければならないと思い、二人ともLEDライトを消して足音を忍ばせて交番の前を通り抜けた。
御神火茶屋は外輪山の縁にあたる場所で、そこからは言わば巨大なお盆の底の溶岩溜まりへ下りて行くような地形となっている。行く手に広がる暗闇は、前日の昼間に見た大島ツツジが咲き誇るのどかな情景とはまったく別の様相を呈していた。
K氏が、遠くの外輪山の山に縦に突き刺さっているように見える三日月を発見した。なんとも不吉な予感を感じさせる不気味な三日月。
お盆の底まで下りると、駐車場に着く所までずっと吹いていた風がうそだったかのように止まり、静寂に包まれていた。神の領域に足を踏み入れているかのような錯覚をおぼえた。とてもじゃないけど、たった一人では来れない場所であることはすぐに理解できた。
足元はAs舗装の遊歩道だが、暗闇を歩くには、LEDライトがたよりになった。

 日の出時刻の4:40まではまだ時間はあったが、ほんのわずかに空が明るくなり始め、巨大なお盆の中央の黒い内輪山がうっすらと姿を現し始めた。その巨大な内輪山を少し登ったところで後ろを振り返ると、はるか彼方に弱い光がまばたいている。「あれは・・・、もしかして伊豆半島の夜景?」
外輪山の縁の先には海原と、そしてその向こうに確かに光の輪郭が浮かび上がって見えた。
結構空気は澄んでいるようだったが、あいにく日の出方向の空は雲に覆われていた。「あの雲さえ無ければベストなんだけどなぁ!」と二人で顔を見合わせた。

 内輪山を登り詰めた付近に、前日見た三原神社の鳥居とすぐ奥に奇岩が見えて来た。ここがお鉢巡りの出発点だ。

001_三原神社の鳥居から溶岩の道へ_R

 ここからは、As舗装道路からはずれた溶岩の山道となる。
前方には前日霧で見えなかった突出した峰が黒くそびえている。日の出方向の空が染まりだし、はやる気持ちを抑えながら急ぎ足で小走りに、そして何度も立ち止まってシャッターを切った。
K氏は辺りの異様な雰囲気を感じてか、あるいは疲れているのか、無言のまま黙々と前方を歩く。
左前方に黒いピークが迫って来た付近からは、溶岩が砕けたような道で、ズルズルと足をとられてなかなか前へ進めない。勾配はさらに厳しくなっていく。それでも二人には、あと少しで東方向の絶景が待っているだろうことは容易に予測できた。ハアハア息を荒げながら登り詰め、ついに尾根にたどり着いた。

 突然眼前に広がった光景に、二人で声をあげた!
「こんな朝焼け、一生のうちに一度見れるかどうかだよ!スゲー・・・、たぶんあれが房総半島の先っちょだろうなぁー・・・」と。 しかし、そこで待ち受けていたのは西から吹き付ける強風! 風速20m超の風が容赦なくそして間断なく背中を押してくる。
尾根の両側にはロープが張ってあり、気づくとロープのほんの1.5m先の足元には、ぱっくりと火口が口を開け、絶壁となっていた! ふと左に目をやると、火口の斜面からは湯気がわずかに沸き立っている。まさにこの山は活火山だ!

私は、まわりを見回す事によって、今立っている場所がどんなに危険な状況にあるのかようやく理解でき、K氏に「あすのニュースで『三原山山頂付近で早朝登山者2名が火口に転落!』とならないよう、冗談抜きで気をつけないとやばい!」と大声で伝えた。この先のピーク(剣ガ峰 約750m)へのルートには遮る樹も岩も無く、吹きっさらしの尾根がつづいている。身の危険を感じながらも まずはこの絶景を撮らなければとそっちの方で気が焦り、ロープを通してある杭を両足で挟んだ格好でシャッターを切り続けた。
ここまで登って来る途中、邪魔をしていた雲が日の出方向に広がり、かえって素晴らしい朝焼け色になり、眼下には紫色に染まる海が広がってきた。北側には裏砂漠と呼ばれる荒涼とした平原が続き、東側の海へと続く斜面には、溶岩が海の方向へ曲線を描きながら流れ出して行く形がはっきりと見て取れる。北側に盛り上がっているピークはおそらく全島避難の1986年の爆発時にできたものとおもわれる。すぐ横の火口(B火口)が不気味に切れ込んでいる。

002_口を開けるB火口_R

ほんの一瞬の突風で飛ばされたら、奈落の底へ消えていくだろう事には疑う余地は無かったが、
両足で挟み込んでいる杭がすっぽ抜けたら一巻の終わりだとわかっていても、刻々と変化する絶景の事に気をとられ、我を忘れて撮り続けた。

003_日の出前_房総半島が見える_R

 太陽が顔を出す直前から朝日の光の束が雲に反射して上空へ伸びて行くような不思議な現象にも遭遇し、大満足の写真もたくさん撮れて一息ついたところで・・・。

004_光の柱 出現_R

さて、ピークの剣ガ峰へと歩を進めようとしたところ、人が歩くには尋常ではないほど横風が強く身の危険を感じたため、道から外れた風上の中心火口側の斜面を歩いていた時、事件が起きた。
突風でよろけて右膝と左手で身体を支えた瞬間、激痛がはしった! 予想外の出血! 右手に持っていたカメラを傷つけまいと必死に守ろうとして無理な体重がかかった結果、思わぬ傷を負ってしまった。
ロープに囲まれている尾根道はある程度踏み固められた路盤だったのに比べ、人の歩かない場所は溶岩が凶器となった!
やってしまった!との後悔と、これ以上けがをしないよう より慎重に行動しなければと反省し、ロープの間の尾根道を風に飛ばされないよう右手でロープを掴みながら剣ガ峰へと登って行った。

005_剣ガ峰への登り_R

 剣ガ峰への登りの途中では ほんの数分間 雲が切れ、初めて中央火口の全容が現れた。その時ちょうど、火口頂上に朝日が当たり、頂上すぐ左側に海に浮かぶ利島,新島が一瞬だけ見え隠れしたが、それもあっという間に霧の中へ消えてしまった。

006_中央火口と利島・新島_R

 二人は尾根に出てからずっと強風にさらされ、体温を奪われ、疲労の色が見え始めていた。
黙々と霧に包まれた尾根を歩き続ける。特にK氏は寝不足とイングレスの疲れで言葉はほとんど発しなかった。

007_霧に包まれた朝日_R

 辺りがだいぶ明るくなって来た頃、前日の見覚えのある展望台の建物が霧の中から現れた。
よし! もうすぐ1周 これでミッション達成だ! 満足感と安堵がじわじわと心の中に広がった。しばらく進んで、三原神社の脇の奇岩の間を通り抜ける。もうここは遊歩道のAs道路。あとは内輪山を下り、溶岩溜まりのお盆を歩き、最後の外輪山を登れば御神火茶屋の駐車場だ!

008_溶岩溜まりをひたすら歩く_R


凄まじい光景の余韻を胸に、溶岩溜まりの平坦な道をひたすら歩く。

急に あたりが明るくなった。
 
そう。 これが きょう二度目の日の出!

見上げると 清々しい朝の光が空に満ちていた。


009_二度目の日の出_R



<了>


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